研究報告書第301号

 

 

 

知的障害養護学校における自閉症児の

教育と支援の在り方に関する調査研究

〜地域のセンターとしての役割を充実させるために〜

 

 

 

 

 

「特殊教育」から,一人一人の教育的ニーズに応じた「特別支援教育」への転換が進められる中,知的障害養護学校に多く在籍している自閉症の特性を示す児童生徒に対する適切な指導が課題となっている。

また,高機能自閉症を含めた特別な教育的支援の必要な児童生徒への支援として,養護学校における地域のセンターとしての役割の充実が喫緊の課題となっている。

 

本調査研究では,知的障害養護学校において調査を実施し,各校における自閉症児教育の実態を把握した。

また,自閉症児教育に先端的な研究を実施している養護学校への視察と共に情報収集を行い,その成果を踏まえて事例検討を進めた。

そして,小・中学校及び養護学校において,自閉症の特性に応じた指導内容や指導方法がわかる,教員向けのリーフレットとQ&A集を作成した。

 

 

 

埼玉県立総合教育センター 特別支援教育担当

 

目   次

 

T 研究の概要

1 研究主題設定の理由・・・・・・・・・・・・・ 1

 

2 研究のねらい・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

 

3 研究の方法・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

 

4 研究の経過・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

 

U リーフレット(一部抜粋)・・・・・・・・・・・・ 4

 

V Q&A集(一部抜粋)・・・・・・・・・・・・・・ 5

 

W 研究のまとめ

1 自閉症の特性を示す子どもたちへの共通理解・・ 6

 

2 自閉症の教育における専門性の確保と向上・・・ 6

 

3 教職員の連携に基づいた指導体制の充実・・・・ 7

 

4 地域のセンターとしての一歩・・・・・・・・・ 7

 

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

 

スーパーバイザー・研究協力委員・・・・・・・・・ 8


研究主題

 

「知的障害養護学校における自閉症児の教育と支援の在り方に関する調査研究」

 〜地域のセンターとしての役割を充実させるために〜

 

 

T 研究の概要

 

1 研究主題設定の理由

  平成13年1月の「21世紀の特殊教育の在り方について〜一人一人の教育的ニー

ズに応じた特別な支援の在り方について(最終報告)」では,「〜知的障害と自閉症

を併せ有する児童生徒等に対し,この二つの障害の違いを考慮しつつ,障害の特性に

応じた対応について今後も研究が必要である。」という提言がなされた。また,平成

15年3月の文部科学省調査研究協力者会議の「今後の特別支援教育の在り方につい

て(最終報告)」では,盲・ろう・養護学校が地域のセンター的機能を担うべき小・

中学校等への支援機能,そして高等部等への入学が予想される高機能自閉症の子ども

たちへの対応が強調された。さらに,平成16年12月の中央教育審議会による「特

別支援教育を推進するための制度の在り方について(中間報告)」においても,「引

き続き研究を進める必要がある。」と提言されており,今後の特別支援教育において

自閉症教育の充実が重要な課題であると認識された。

現在,障害のある子どもの教育については,障害の種類や程度等に応じて盲・ろ

う・養護学校及び小・中学校の特殊学級・通級指導教室において個に応じた指導が行

われているが,今後は,さらに障害のある子ども一人一人の教育的ニーズに応じて教

育指導を行う体制について検討する必要性がある。文部科学省の調査研究会が平成1

4年に行った「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関す

る全国実態調査」では,高機能自閉症と推測される子どもたちが0.8*1いることが

示されている。これに養護学校や特殊学級に在籍している自閉症を加えると1%を越

え,その数は現在特殊教育の対象となっている障害の中で最も多い障害種である知的

障害の割合を遙かに上回っている*2。また,知的障害養護学校在籍者の約3割*3

自閉症であると言われているが,これらの子どもたちは自閉症ではなく知的障害とし

ての教育的対応をされているという現実がある。自閉症の子どもの多さと共に,知的

障害とは異なる自閉症の障害特性及び自閉症の子どもの持つ困難性から,自閉症に対

応した効果的な指導内容と指導方法について具体的に検討する必要性がある。

  こうした状況をふまえ,知的障害を伴う自閉症を中心に,知的障害と自閉症の障害

の違いや障害特性に応じた対応の在り方について明らかにすると共に,知的障害養護

学校の地域におけるセンターとしての役割について事例をとおして考察する。

 

 2 研究のねらい 

  (1)  各調査研究協力員が所属する知的障害養護学校において調査を行い,各校に

おける自閉症児教育の実態を把握する。その中で,自閉症児への指導内容と指

導方法における工夫と困り感について明らかにする。

  (2)  自閉症児教育について先端的な研究を実施している東京学芸大学教育学部附

属養護学校を視察すると共に情報収集を行う。その成果を踏まえて,各調査研

究協力員の所属する知的養護学校において効果的な指導及び指導方法につい

て,仮説を基に実践する。

  (3)  小学校及び養護学校における自閉症の特性を示す児童生徒において,自閉症

の特性に応じた指導内容や指導方法の指針となる教員向けのリーフレットとQ

&A集を作成する。

以上3点を通じて,自閉症の特性を示す児童生徒への教育支援の充実を目指す。

 

 

 

 


3 研究の方法

 


・課題についての共通理解を図る。

各校における自閉症児教育の実態の把握

・指導内容や指導方法における各学校での工夫

 @自閉症児に対しての指導内容

  ア 自立活動で重視している内容

  イ 自閉症児について配慮している内容

 A指導方法において配慮している内容

・指導内容や指導方法における各学校での困り感

 @自閉症児の行動について

 A指導の体制について

 B自閉症児の活動の参加状況について

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


・埼玉大学教育学部附属養護学校での実践研究

・東京学芸大学教育学部附属養護学校の視察及び情報収集

・KJ法的手法を用いての教育実践における困り感の整理

 

 

各校の自閉症児教育の実態把握に基づく教育実践の実施

・自閉症特有の内容

・授業への参加を促す工夫

・個人のスキルアップを促す工夫

 
 

 

 

 

 


・浦和養護学校及び久喜養護学校での仮説による教育実践

 

 

自閉症の特性に応じた指導マニュアルの作成

・自閉症の特性に応じた指導内容の例示(知的発達障害+α)

・自閉症の特性に応じた指導方法の提示

(体制,課題提示,指導法等)

 
  

 

 

 

 

 

 

 

・さいたま市立大牧小学校・久喜市立本町小学校

・さいたま市立大宮東小学校での事例研究

 

 


 4 研究の経過

◎第1回研究協力委員会   平成17年6月10日(金)

埼玉県立総合教育センター

      ・調査研究委嘱式(養護学校調査研究協力員7名,スーパーバイザー1名を委嘱)

      ・調査研究の趣旨説明

 ・研究内容及び研究体制並びに日程等の協議

   

◎第2回研究協力委員会   平成17年7月5日(火)

埼玉大学教育学部附属養護学校

      ・文教大学講師 霜田浩信先生による講話

     「知的障害養護学校における自閉症児教育の在り方」

   ・研究報告書の概要

   

  ◎第3回研究協力委員会   平成17年9月9日(金)

東京学芸大学教育学部附属養護学校

   ・実践の研修(視察及び情報収集) 

   

  ◎第4回研究協力委員会   平成17年10月11日(火)

埼玉県立浦和養護学校

      ・実践授業と困り感のまとめ

  

  ◎第5回研究協力委員会   平成17年11月4日(金)

埼玉県立久喜養護学校

      ・実践授業 ・小学校における課題の共有化

   ・調査研究委嘱式(小学校調査研究協力員3名)

  

  ◎第6回研究協力委員会   平成17年12月9日(金)

さいたま市立大牧小学校

                 久喜市立本町小学校

                     12月13日(火)

さいたま市立大宮東小学校

・小学校での事例研究              

  

  ◎第7回研究協力委員会   平成18年1月13日(金)

埼玉県立総合教育センター

      ・研究成果についての全体協議

      ・文教大学講師 霜田浩信先生からの指導助言

 

  <注>

*1 「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」調査結果 平成14年2月〜3月実施

*2 自閉症教育実践ガイドブック
           平成16年6月発行 独立行政法人国立特殊教育総合研究所編

*3 特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議(第6回)議事要旨   平成15年1月

 

 

U リーフレット(一部抜粋)



テキスト ボックス: リーフレット(PDFファイル)全体はこちら

 


 

V Q&A集(一部抜粋)

 

 

 

 


 

W 研究のまとめ

 

自閉症の特性を示す児童生徒は,対人関係やコミュニケーション,状況の理解などに

多くの困難さを抱えている。このことから,情緒障害教育及び知的障害教育では,諸外

国の取組などを参考にして,教材・教具や教室環境を整えるなどのほか,これまでの実

践の積み重ねにより,特性に応じた指導方法が講じられてきていたが,まだ十分とは言

えない状況である。特に,自閉症の特性を示す児童生徒に対しては,適切な対応がなさ

れなければ,重大な二次的な障害(例えば,激しい自傷や他傷)が引き起こされる可能

性もある。そのため,かかわりを展開する際には,個々の教員そして教師集団のさらな

る専門性の向上が必要であり,指導者の養成をはじめ効果的な研修が必須と言える。

また,指導内容については,学習指導要領に知的障害養護学校の各教科として,生活

上必要な指導内容が示されており,高機能自閉症等の児童生徒の一部を除いて,それら

が必要な指導内容であると考えられている。しかし,対人関係やコミュニケーション,

状況の理解などの困難さに特化した対応については,現行の学習指導要領に自立活動が

指導内容として示されているが,自閉症の特性を考慮すると,実際の指導に当たって

は,その内容の拡充や再整理などが必要であると考えられる。さらに,先端的な研究に

より,効果的な指導内容や指導方法を明らかにすると共に,適切な対応が求められてい

る。

一方,自閉症の位置づけは,情緒障害教育において,主として心因性の情緒障害と発

達障害である自閉症が分けられていないことから,両者が同一の学級に在籍している場

合には,指導内容や方法が異なり,指導者が苦慮していることが多くある。また,自閉

症が発達障害であるとの認識が一般にはまだ不十分であり,養育に要因があるとした

り,心因性としたりするなど,現在でもまだ誤解がある。情緒障害と自閉症,知的障害

と自閉症の関係についてもより一層検討する必要性がある。先の「特別支援教育の在り

方に関する調査研究協力者会議」の最終報告の提言及び平成17年12月8日に中央教

育審議会から答申のあった「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」な

どを踏まえ,自閉症の位置づけについて検討する必要があると考えられる。

以下は,本研究を通じて明らかになった今後の課題である。

 

  1 自閉症の特性を示す子どもたちへの共通理解

自閉症の特性を示す子どもたちは十人十色だと言われている。個々の障害特性を

理解した上で,個々の特性が絡み合い,さらに環境との相互作用もあって複雑な状

態像が表れたことを理解することが重要である。個々の子どもの特性も成長の段階

で,非常に顕著に表れる時期もあれば,ほとんど表れない時期もあると言われてい

る。したがって,自閉症の診断基準でもある@対人関係の特異性Aコミュニケー

ションの障害Bこだわりと想像力の障害や症状及び障害特性を理解しながら指導内

容や指導方法について,個々の子どもに求めていく姿勢が必要である。

 

    2 自閉症の教育における専門性の確保と向上

自閉症の特性といっても,一人一人でその症状が微妙に違っていたり,複雑に絡

み合ったりしている。自閉症の特性を単に知っているだけではなく,その特性に関

する知識を個々に応じて理解し活用することが必要不可欠である。そのため,子ど

もたちが必要としている支援の内容を探り,指導目標を定め,指導を実行するため

のアセスメントについて,自閉症の特性を考慮した心理検査や行動観察,保護者と

の連携等を行って実施できる専門性の確保と向上が必要である。また,自閉症の特

性を示す子どもたちの中には,学校では考えられないような問題となる行動が家庭

で生じたりするので,家庭や地域生活での情報も十分に把握しなければならない。

 

  3 教職員の連携に基づいた指導体制の充実

自閉症の特性を示す子どもたちの教育に当たっては,教職員及び関係者の共通理

解に基づき,一人一人の自閉症の特性に応じた指導内容と指導方法を適切に選択し

指導に当たることが求められる。しかし,一人一人異なる子どもの特性の理解や適

切な内容・方法の選択は必ずしも容易なものではない。それだけではなく,子ども

にかかわる人々の理解の仕方や支援に対する考え方の違いが指導の一貫性を困難に

してしまうという課題も横たわっている。このため,「文化」とも言われる自閉症

の特性に応じた指導の充実を図るためには,関係者が子どもに関するさまざまな情

報及び指導目標,内容,方法に関する判断を共有し,共同的に実践及び評価を行う

取組を充実させなければならない。盲・ろう・養護学校の地域のセンターとしての

役割は,その一翼を担うものである。

 

    4 地域のセンターとしての一歩

盲・ろう・養護学校が地域のセンターとしての役割を充実させるためには,専門

性の向上もさることながら,小・中学校との関係が円滑に連携が図れるような環境

の醸成をしていくことが重要である。本調査では,自閉症の特性に応じた指導内容

と指導方法のヒントとなるリーフレットとQ&A集を作成した。しかし,リーフ

レットとQ&A集は,あくまでもヒント集であって,各学校の実情に応じて,弾力

的に対応することが適当である。これらの支援ツールを媒介として,盲・ろう・養

護学校と各小・中学校との協働を一歩ずつ進めていきたい。

 


【参考文献】

 

自閉症支援マニュアル編集委員会(2004)「自閉症の世界へようこそ−自閉症支援マ

ニュアル−」 自閉症サポート研究会

小林重雄・園山繁樹・野口幸弘(2003)「自閉性障害の理解と援助」 コレール社

日本自閉症スペクトラム学会(2005)「自閉症スペクトラム児・者の理解と支援」 

教育出版

尾崎洋一郎・草野和子・尾崎誠子(2005)「高機能自閉症・アスペルガー症候群及び

その周辺の子どもたち」 同成社

バル・クミン ジュリア・リーチ ギル・スティーブンソン/齊藤万比古 監訳2005

「教師のためのアスペルガー症候群ガイドブック」 中央法規

安達潤(2002「岡山県高機能広汎性発達障害児・者の親の会主催 第1回小規模研修会 資料」

国立特殊教育総合研究所(2004)「自閉症教育実践ガイドブック−今の充実と明日へ

の展望−」 ジアース教育新社

文部科学省(2004「小・中学校におけるLD(学習障害)ADHD(注意欠陥多動性

障害) 高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)」

DSM−W−TR(高橋三郎・大野裕・染矢俊幸訳(2002)「精神疾患の診断・統計

マニュアル」)

内山登紀夫・水野薫・吉田友子編(2002)「高機能自閉症・アスペルガー症候群入門

−正しい理解と対応のために−」

ブレンダ・ボイド(落合みどり訳)(2006「アスペルガー症候群の子育て200のヒン

ト」 東京書籍

 

 

 

スーパーバイザー  文教大学教育学部        講師  霜田 浩信

研究協力委員    県立浦和養護学校        教頭  黒須 文夫

県立浦和養護学校        教諭  須藤 幸恵

県立浦和養護学校        教諭  宮前 純子

県立久喜養護学校        教諭  藤原 卓也

県立久喜養護学校        教諭  福地 一行

埼玉大学教育学部附属養護学校  教諭  宮元 恵

埼玉大学教育学部附属養護学校  教諭  大美賀 了

さいたま市立大牧小学校     教諭  武内 玲子

久喜市立本町小学校       教諭  園部 啓子

さいたま市立大宮東小学校    教諭  川添 倫義

 

担  当      県立総合教育センター      副所長  猪股 拓美

同 特別支援教育担当      主任指導主事  櫻井 康博

指導主事  清水 光雄

指導主事  山口伸一郎

指導主事  小池 浩次